愛と嫉妬のホームパーティー(二人でお茶を9)
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*マグネットブックマークは、1月7日午前までのご注文分で配布終了しました。どうもありがとうございました。 2024年12月29日(コミックマーケット105)発行 新書サイズ/52ページ 大人花流の「二人でお茶を」シリーズの9冊目です。 今回は深津と沢北の、沢深カップルに登場してもらっています。 表紙はへろへろさんにお願いしました。
【sample】
1 九月第三週の火曜、午後五時。今週もこの時間が来たかと複雑な気持ちでテレビをつけて、目当てのチャンネルにあわせた。神奈川では見たことのない地元色の強いコマーシャルが流れた後で、夕方のワイドショー番組に切り替わる。床に座って洗濯物を畳みながら視聴する。テレビに映し出される景色を見ては「ここは行った」とか「わりと近所だな」とか「遠そうだな」などの感想を持つ。大分に越してきて三ヶ月以上が経った。町にも馴染んで快適に暮らしている。俺はきっとどこででも暮らせる。洋平たちにも言われた。あいつらは元気にしている。しょっちゅう電話やメッセージを送ってくるので、全然距離を感じない。便利な時代だ。派手なジングルが流れて俺は顔を上げる。来たな。流川の練習着を畳んでから、後ろのソファに移動する。待っていたかのように春から家族になった猫が膝の上に飛び乗ってきた。背中を撫でながらテレビを指差す。 「スリー、お前の仲間が出てきたぞ」 流川である。渋い深緑色のカットソーが似合っている。もう長袖だ。家を出たときは半袖のティーシャツだった。そもそもうちはまだ長袖は出ていない。テレビの時の服はどこかから借りることがあると言っていた。それってどういう仕組みなんだろうか。下は灰色のスラックスを履いていた。あれは俺の服だ。この前一緒に出かけたときに買った。あの時、流川も自分の服を買っていたというのに。 「アイツはなんで俺のを履くんだろうな」 スリーが来て独り言が増えた。いや、スリーに話しかけているのだから独り言じゃない。返事がないだけだ。そしてそれは流川相手に話している時と同じだ。前にそう言ったら流川は「そーかも」と頷いていた。ちょっとは否定しろよな。流川の隣には白い服を着たきれいな女の人が立っていて、たまに流川を見上げるようにして話しかける。こういう場面を見ると、流川はでかいなあと思う。俺も大きいもんだから一緒にいると気づかないのだが、一般的に流川はかなり大きい部類に入るのだ。話しかけられた流川は頷くだけで、うんともすんとも言わない。それでも番組が進むのは、この女の人が頷くだけで済むような質問をしているからだ。 「えらい人だよな」とスリーに言うと、スリーは俺の手に頬を擦り付けた。 流川はある日突然にこの番組に出始めた。例によってアイツは事前に何も伝えてこなかった。夕方ザッピングしていたら、流川が急にテレビ画面に出てきたのだ。あの時の衝撃は忘れない。どういう状況かわからないまま興奮状態で視聴した。生放送である上に、ロケとやらにも行っていてその映像も一緒に流れた。俺は何一つ知らなかった。帰ってきたあいつに向かって「なんで言わないんだ!」と訴えたら、「ああ」と思い出したように言った。それだけ。いつも思うのだがテレビに出ることを黙っていられるなんて、本当に信じられない。一体どういう神経をしているんだ。 「さあ流川さん、今日もあの方が来てくださっているんですよね」 アナウンサーが目をキラキラさせて流川に話しかけて、流川が頷く。それを受けて「では呼んでみましょう。せーのっ」とアナウンサーがニコニコ顔で掛け声をかけて、「サワキタさーん」と叫んだ。たぶんその場にいる奴ら全員で呼ぶ流れだっただろうと思うが、流川だけ棒立ちのままだった。少し間があって「サワキタ」なる男が溌剌とした表情で手を上げて「どーもどーも」と画面に現れた。沢北栄治という字も一緒に出た。流川のチームのメガフォンを首にぶら下げている。沢北はサービス精神があって、確か前回は流川のチームのティーシャツを着てランニングするような感じで入ってきた気がする。その前は流川のチームのマスコットキャラクターのぬいぐるみを両脇に挟んで現れた。沢北は華やかな空気をまとっていて現れると場が明るくなる。流川もサービス精神こそないが、あい変わらず端正な顔立ちをしているから立っているだけで絵になる。見栄えの良いふたり組だ。憎たらしいほどに。沢北が出始めて今回で三回目だが、すっかり話題のコンビになって巷で騒がれている。 「今日も二人ともカッコいいですね」と司会の一人が言って「近くにいると眩しくて目が潰れそう」ともう一人の司会も言っている。 「本当にお似合いのコンビですね」 これ。これが毎度モヤッと来る。お似合いってなんだよ。カップルみたいに。お似合いお似合いとスタジオが盛り上がって、お似合い祭りだ。盛り上がれば盛り上がる……