あれなければしとぴっちゃん
- 物販商品(自宅から発送)あんしんBOOTHパックで配送予定¥ 1,200
『あれなければしとぴっちゃん』 2017年4月初版 2023年1月第2版 152ページ・2段組/新書サイズ この本は2017年に出した「あれなければしとぴっちゃん」に修正を加えた第2版となります。内容は2017年のものと全く同じものになります。 ーーーーーーーーーーーーー 過去の本の2冊の再録です。 1話目:「あれなければこれなし」(2011年作品) ひょんなことから15センチになってしまった花道と、15センチの花道を世話する羽目になってしまった流川(と流川のおかあさん)の交流のお話。 花流ですがBL色は低めです。桜木軍団やリョーチンやミッチーが出てきます。 風変わりな話です。下に長めのサンプルを上げております。 記念すべき長編1作目、思い入れ深いお話です。 2話目:「しとぴっちゃん」(2012年作品) 山王戦の後、入院して治療していた花道が復活してからのお話です。 流川くんと花道がちょっとずつ歩み寄って惹かれあっていく花流のお話です。こちらは、Pixivで全文が読めます。 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12168875 ★表紙は、へろへろさんに描いていただきました。 https://twitter.com/heloheloheeeee よろしくお願いいたします!
あれなければこれなし(sample)
1. 俺は流川楓というヤローが気にくわない。 初めて会ったときから気に食わなかった。 まず、あの目が気にくわねえ。おまえなんかどうでもいいといわんばかりの目が気にくわねえ。それから無口なのが気にくわねえ。あいつに無視されるとどうしてああもいらいらするんだろう。ちなみにたまに言葉を発することもあるが、話したら話したで腹が立つ。短いながらに見事にムカツキのツボを押さえたいやなことを言いやがるのだ。でもって女子の人にやたら人気なのが気にくわねえ。晴子さんもあいつのことが好きみてえだし。いや、それは別に、仕方ねえのわかってる。こればっかりは流川が悪いってことじゃねえのはわかっている。けど、でも! 晴子さんへの態度があんまりであるのが気にくわねえ! そうだそうだ! せっかく晴子さんが話しかけているというのに、流川ときたら目もあわせねえで「あー」とか「うー」とか腹になんか詰まってんのかと聞きたくなるような返事しか返さない。ああいう態度を見ると本当にむかむか来る。ことごとくいらつかせる野郎だ。 と、言ってもチームメイトだし。 そういう心根の良くないのもどうかな、と思ってオレだってそれなりに努力はした。歩み寄ろうと努力したのだ。 だけどせっかく千歩くらい譲って話しかけてやっても、あいつは例のあのばかにしたような目でオレを見てくるわ、いやなことを言うわ、ひどいときは殴ってくることすらあった。 昨日もそうだった。 オレ様がせっかく話しかけてやったというのに、あいつはいきなり俺を殴ったのだ。オレは殴られたら殴り返す。相手が流川だと特にだ。流川は丈夫だから遠慮はいらねえ。いつも思いっきりぶん殴れるし、ぶん殴られる。昨日もその調子でやりあっていて、気づいたら二人とも顔がデロデロのぼこぼこになっていた。 帰り道、痛む頬をさすりながら、もう二度とあんなやつに話しかけたりしねえ! と目に入ってくる夜空の星すべてにオレは誓ったのだった。 ところが早速、その誓いはリョーチンによって翻意を促された。リョーチンは頭がいいから一目見たら何でもすぐに分かるらしく、今朝も俺の顔を見て、「また流川か」と言ってきた。すげえ渋ちんな顔してた。 「おうよ」 「おうよじゃねえよ。なんでそうなんだ。お前らチームメイトだろーが!」 「そうだけど……オレは悪くないぞ! 流川が殴ってきたんだ。いっつもあいつが」 「あほ! あの流川が何もなしに自分から人を殴ったりするかよ。あいつがそういう積極的なタイプなもんか! 十中八九、お前からなんかしてるに決まってる!」 「なんだよ! リョーチンはオレが憎いのかよ!」 「そういうことじゃねえだろ! 仲良くしろといってるんだ! いい加減、ちゃんと流川と分かり合え!」 「分かり合う? 流川とおれが?」 ないなっ! ハハハ! ないない! 「今日からテスト週間でちょうど練習も休みだ。いいか! この一週間以内に絶対に仲良くなれ!」 はっきりきっぱりお断りだ。 冗談じゃない。あんな言葉の通じないキツネと分かり合うなんて! 無理でございますってなもんだ。 「なーにーをーすました顔をしてんだ! お前に断る権利なんかねえんだよ!」 オレの両の頬を引っ張りながらリョーチンが恐い顔して迫ってくる。 「アデデデ、いてえよ! まだ傷がうずくんだよ!」 俺の叫びにぱっと頬から手が離れ、今度は肩に回された。親密な感じに頭を寄せられる。 ぬ? なんだ? 「……いいか? 花道よーく聞け。お前はとってもいい奴だ」 「そうか?」 「そうだ。お前はとってもいい子だ花道。だから今日から一週間のうちにあいつと分かり合え。分かり合わねえと、オレはもうお前とは遊んでやらねえ。」 「!」 それはいやだった。なんといってもリョーチンは同志だ。同志と遊べないなんていやだ。 「わーったよ」 聞き分けのよい俺は、渋々ではあるが、リョーチンの言う通りに流川と分かり合うことを決意した。 いやなことはさっさとやる。オレはすぐに行動を起こした。昼休みに果たし状をちゃんと流川の机に置いてきた。分かり合うためには話し合いだ。話し合うために、まずはあいつを呼び出すという段取りだ。 「それで、なんで果たし状なんだよ。それが分かり合うやつがすることかよ」 ここまでおとなしく聞いていた大楠が口を挟んできた。帰り道、練習がないならパチンコに寄ろうぜと誘われたので、「用がある」と断った流れで、こいつらにいきさつを話してやっているところだ。 「だったら、ほかに何があるんだよ」 手紙のタイトルといえば、ラブレターか果たし状だろ。ラブレターじゃねえんだから、果たし状しか残っていない。 「別にタイトルなしでもいいだろーが」 バナナを食べながら高宮が言った。うるせえなあ。こういうのは形が大事なんだよ。 「手紙が……ムグ……果たし状か、ラブレターの二者択一ってところも、問題あるよな」 なんだよ、ニシャタクイツって。 「しかも神社に呼び出しって……」 今度は忠が言う。 「そうだよ。そこが分かり合う場所かよ」 「ほかにいい場所ねーんだもんよ。分かり合いにはまず語り合いだ。語り合いとなるとガッコーはふさわしくないし。ほかにはファミレスだけど、あいつとファミレスなんて気がのらねえ。そしたら残ってんのはもう神社しかなかったんだよな」 「なんで残ってるのが神社だけなんだよ。お前の頭がわからねーよ。どうなってんだ。あーあ、なんでこんな日に限って洋平は風邪をひいてんだ。花道がばか道をまっしぐらじゃねえか。っていうか、なんで洋平いないときにそんなことしようとしてんだよ」 大楠がうんざりしながら言う。 「うっせーなあ。しょーがねーだろ。そういうのはリョーチンに言えよ。リョーチンが今日からって言ったんだ。今日からって言うなら今日やるだろ? 洋平が風邪引いてるのは、それは俺、ぜんぜん悪くねーだろ」 「そらまそーなんだけど、何か釈然としないんだよなー」 エトセトラが三人そろって、呆れたような哀れむような、わりと失礼な目でオレを見つめてきた。なんなんだよ。 「問題はその果たし状で流川がくるかということだよな。どこの神社だ? 御似神社か?」 「そうだあそこだ」 「あそこあほみたいに階段が多いじゃねえかー。百段はあるんじゃねえか?」 げんなりした顔で高宮が言う。お前のその腹じゃあなあ。十段登ったらへばってそうだ。少しは運動しろよと腹をつついてやった。プヨプヨしてる。 「おれはまあ、こねえと思う」 大楠がまたもいやなことを言う。 「なんでだよ! 来るだろ!? 人が呼んでんのに!」 「こねえだろ。あほらしくて俺ならいかねーな」 忠までも! 「まーその時になったらわかるだろ。俺あいつが来ないに五百円」 「賭けるな!」 「俺あんなの登りたくねーよ。あんな階段登らないで、下の公園で話し合えよー」 「ばかやろう! あの朱色のくぐったところで話し合うに決まってるだろ。下の公園なんて神社を指定した意味がねーだろ……っていうか、お前らはくんなよ?」 「なんでよ! 行くぞ!?」 口をそろえて、目を丸くして、三人がいっせいに叫ぶ。エトセトラはいつも息がぴったりだな。「こんなおもしろいこと!」「見せろよ!」とか言っている。このやろう、見せ物じゃねえぞ。 「へらへらしたお前らが来たら、しまるもんもしまらなくなるだろーが。それに、お前らまでいたら、なんか、卑怯者っぽいだろ」 そう言うと三人は肩をすくめた。 「確かにお前は卑怯者じゃあないよな。愚か者だけど」 「愚か者でもねえよ!」 「へえへえ。じゃあまあ好きにしな」 「おう」 「せーぜー気をつけるんだな。返り討ちにあうなよ」 「だからケンカじゃねえよ! 分かり合って来るんだよ!」 「あーあーわかったわかった。しっかり分かり合って来い」 「流川が来ればの話だがな」 「まずはそれだよな!」 ゲラゲラ笑いながら、あいつらは帰っていった。てれてれとしたあいつらの後ろ姿にひとつ舌打ちをして、それから俺はいつもの道とは違う、神社のある方へと歩いていった。 *** ふうふう言いながら登った神社の階段はあいつらが言うとおり百段はあったと思う。実際の数はわからねえ、途中で数えるのを忘れた。五十段上ったくらいの所がちょっと広くなっていたので、おれは休憩がてらそこに腰を下ろした。 俺の住む町がいっせいに見渡せて、いつしかその景色にオレは夢中になっていた。 俺んちを探したりとか、学校を探したりとか、屋根の色って色んなのがあるんだなとか思った。一個一個の屋根の下に誰かがいるんだと思うとちょっと胸に迫るものがあった。もっと向こうには俺らの海が見えた。こっから見るとでかい水たまりみてえだな。太陽が沈み始めていて、空や海をいろんな色にさせていた。帰るときまでにぎやかなやつだ。 すっと涼しい風を頬に感じて、はっと我に返る。「わかりあう」という任務を思い出し、慌ててオレはまた登り始めた。 やっとで登りきったところは薄暗くてひんやりとしていた。地面はたくさんの葉っぱで覆われていた。背の高い木がいっぱい生えていて、ここら辺はあまり陽があたりそうにないなと思った。用もないのに好きで登ってくる奴はいなさそうだ。……妙に気味が悪いし。俺はめったにそういうことは思わねえタチなんだけど。もっと昼間に来たほうが良かったか。 神社の敷地の奥の方を覗いてみるとちっさいお地蔵さんみたいなもんがたくさんあった。あれ多すぎだろ。身体がぶるっと震える。奥はここよりももっと暗くて、ぜったい動物とかがいるなと思った。猫とか犬とかそういうなじみのあるもんじゃなくて、もっと、腹がすごいでかいタヌキとか尻尾が割れたキツネとか……むっ、キツネ! 流川め……そうだここは一発、祈っておこう。 さい銭箱に俺の貴重な十円玉を投げ込んで、手を合わせる。 「どうか! 流川楓といういやなヤローと分かり合えますように! 神様……流川楓という奴は本当にいやな奴なんです。俺のことをいつも無視しやがるのです。あと馬鹿にしたような目で見てくるんです。たまにいやなことも言うんです! それにとてもバスケがうまいんです。あわわわ、ちがいます。うまいふりをしているんです。たいしたことないのに。俺のほうがうまいのに。けれどもそんないやな奴とでも分かり合いたいのです! どうしても! なぜかといわれればそれは別にリョーチンに言われたからではなく、俺自身がそれが必要だと感じ……」 夢中で神に祈りを捧げていると、後ろからザッ、ザッという音が聞こえてきた。 「来たか!」 ドキッとなって振り返ったが流川はいなかった。また聞こえた。あの音は階段の葉っぱを踏む音だ。階段のへりンところまで駆けていくと、見知った頭が見えた。あれは流川の頭だ。 やっぱり来た! あいつは絶対来ると思っていた! 流川は五十段目のところで休憩をしていた。俺がしたようにあいつも町を眺めていた。お前もそこの魅力に気づいたのかと少し嬉しくなって、ちょびっとだけ分かり合えた気がした。 「おい! テメー何ちんたらしてやがる! さっさと登って来い」 俺の声に反応して、流川が顔をこちらに向ける。 「テメーが降りて来い!」 おおお、流川も大きい声を出すんだな。オレとおんなじだ。また分かり合えた気がした。 「いいから来い! もうへばったのか、クソギツネ!」 あいつは負けず嫌いであるから、こう言えば登ってくることを俺は知っていた。そして事実あいつは登ってきた。 分かり合えてる分かり合えてる。 たまにオレを睨みつけながら一段一段登ってくるあいつを見ながら、最初は何と言おうかと考えはじめた。「待っていたぞ」か。いや、「待たせやがって!」か。でもせっかく来たんだから、「来たか!」か。それはちょっと迫力に欠けるな。いや、迫力はいらねえだろ。流川が一瞬、段をずるっと踏み外した。 「ばか! 気をつけやがれ! 転がり落ちるぞ! 注意力を持て!」 返事をする代わりに睨みを寄越す。これだもんな。せっかく心配してんのに。人の気持ちの分からない奴だ。 それからは一歩一歩確実に段を踏んで、流川は最後まで上り切った。はあはあ言っている。 「着いたか! はっはっは! ばてているな!体力のない奴だ!」 「……テッ……メー……ぶっ……コロす」 ムッ。開口一番それかよ! 「憎たらしいキツネめ!」 「叫ぶなサル」 「やっぱりお前はむかつくヤローだ! それを改めて言っておく!」 その時流川がいつもとちょっと違う顔を見せた。それは一体どういう顔だ。 「……帰る」 「えっ!」 今来たばっかじゃねーか! まだなにも話し合ってねーってのに! 肩を掴むと、いきなり腹を殴られて、ウググとなる。だから、痛いんだって、おまえのは。 「……な……ぜ……殴るっ!」 丸腰の俺を! 「むかつくから」 そのセリフに今度はオレもむかついた。コブシを握り締め「このキツネヤロー!」と殴りかかろうとしたとき、不覚にも俺は落ち葉で滑った。喧嘩の天才桜木花道ともあろう者が。ずるっとすべって、勢いがあった分だけ体が思いっきり前のめりになり「これやばい!」と思った時にはもう遅かった。流川を巻き込んでドンドンゴロンゴロンと階段を転がり落ちてしまったのだ。 2. 気づいたときは、例の五十段目のところだった。 「ううう……」 唸りながらからだを起こし、ああ痛い、と思う。昨日から散々だ。顔も体ももうボロボロだ。それもこれも流川の……そうだ、流川は? 一緒に落っことしてしまったぞ! きょろきょろとあたりを見回した。 あれ? 漠然と世界に違和感を覚えた。 なんかおかしい。 「……ちっこい」 流川の声で、変なせりふが頭の上から降ってきた。 見上げると、とてつもなく大きな流川が俺を見つめていた。 普段から割と大きな奴とは思っていたが、ちょっとこのでかさは異常だろ。っていうか…… 「こりゃ、なにごとだ!」 「てめー……ちっこくなってる」 「おれ! 小さくなってる!?」 流川は一回ゆっくりとうなずいた。 慌ててオレは周囲を見てみた。 視界に入ってくるものがいつもと全然違った。落ちている葉が布団のでかさだ。階段の段差はちょっとした塀だった。階段脇に生えている木はもはや認識不能のサイズ。 俺は本当に、ちいさくなってしまっていた。 (続く)